農家の事業承継とは?|基礎知識と農業特有の事情

事業を発展・継続させた後の着地をどうするか、経営者なら誰しもが直面する問題である「出口戦略」。IPOやM&Aで経営のバトンを未来に繋ぐ企業はたくさんあります。こと農業においては産業の性質上、先代(親)から当主(子)へと事業承継を考えるケースが多いかと思います。

「親から子へ代表者が変わるだけでしょ?」
実際はそんな単純な話ではありません。事業承継がうまく行われないと先代が築き上げた財産が水泡に帰すこともあり得ます。

この記事では、事業承継を考えている親世代(60歳以上)から後継者となる子世代(20代後半~)へ向けて、スムーズな事業承継をするために最低限知っておくべき基礎知識を紹介します。

農業の事業承継とは ?単なる社長交代じゃない

事業承継は単なる代表者の交代ではありません。何人も雇用している経営形態でも、家族経営でも同様に事業承継はとても大切な仕事です。

事業承継で引き継ぐものは、畑の所有権・賃借権やトラクター、コンバインといった機械の名義だけではなく、経営理念や契約書、保険といったもの、取引先との商習慣や個人・法人問わず上顧客とのかかわり方まで引き継ぐべきものはさまざまです。

先代からしてみたら、誰かから習ったわけでもなく、自ら考え、自ら取得した財産かもしれません。後継者となる方に「俺の背中を見て覚えろ!」などといってしまったら最後、引き継げるものも引き継げません。自分の代だけでなく、次の世代である後継者へバトンをつなぎ、そのお客様・関係者にも継続的に喜んでもらうには事業承継が不可欠なのです。

農業の事業承継で特に気を付けることは土地の管理です。所有者や地主の方といった地権者と契約書を交わさず、口約束や雰囲気で何年も管理をしている畑はありませんか?そのような畑は要注意です。親から子へ、「契約書を交わしてはいないが自分たちが管理する場所だ」と伝えれば済む話ではありません。耕作者の世代だけではなく、地権者(地主)側の世代も変わったとき、書面なくしては法律上の管理義務者がわからなくなってしまいます。たとえ地権者と知った仲であったとしても、後世のあらぬトラブルを生まないよう、1つ1つ契約書面を残しておくことが大切です。その契約は、引き継ぎやすい状態になっているか一度確認してみましょう。

▼関連記事 【スムーズな事業承継と幸せなリタイアに必要な考え方・やるべきこと】

https://agri-touch.co.jp/way-to-think/ 

なぜ事業承継が必要なのか?事業承継しなければいけない理由

事業承継しなければいけない理由は「廃業させないため」です。なぜ廃業させてはいけないのでしょうか。いち農家の廃業も様々な方面に影響を及ぼします。廃業することによる損失の代表的な例は次の3つです。
 

  • 廃業による雇用の喪失
  • 廃業による技術の喪失
  • 廃業による経済的損失(黒字にもかかわらず後継者不在による廃業)

改めて書くまでもないかもしれませんが、雇用が無くなることの影響はとても大きいです。被雇用者である本人だけではなく、その家族にも影響を及ぼすということは、想像に難くないでしょう。

技術の喪失について。農業は気温や天候といった地域特性が強い業態のため、本やインターネットによる学習のみの技術習得が難しく、現場経験の数が物を言う世界です。新人・ベテラン問わず、1年に一回しか経験できない農作業。農家歴30年の方でも施行数は30回に留まります。そんな貴重な農業技術を喪失してしまうほどもったいないことはありません。

農業に限ったことではないですが、黒字経営にもかかわらず後継者不在による廃業が社会問題となっています。中小企業庁によると6割を超える中小企業が黒字にもかかわらず後継者不在による廃業という選択肢をとっているとあります。お客様を満足させ、種苗メーカーや機械屋、販売店などさまざまなかかわりを持つ企業が無くなってしまうことは社会的にもとても大きな損失といえるでしょう。

農家の事業承継の現状

Q.後継者はいますか?
YESと答えた農家の半数近くの同居後継者の農業従事日数が0日~30日
非同居後継者が2割ほど。本当に後継者になりえるかは不明

農林水産省「2020年農林業センサス」に事業承継についてのアンケートがあります。これによると、5年以内の後継者を確保していないと回答した層が71.1%にも昇ります。農家戸数にすると764,367戸。農家1件当たりの年商の平均が1000万円(諸説あります)といわれているので、戸数と掛け算をすると……ゾッとする金額ですね。

後継者問題は、後継者候補の有無だけではありません。たとえ後継者候補がいたとしても、事業承継が進まないケースも考えられます。親から見て、その子が後継者になる資質が不十分だと判断される。子から見て親の負債や補償のリスク、そもそも農業という業界に興味がない。などなど。

第一に後継者候補がいるのか、いないのかという問題。そこから本当に後継者になるに足る人物かという問題。後継者問題は何層にも絡み合う複雑な問題なのです。

後継者に何を承継するのか

前述したとおり、事業承継とはただの社長交代ではありません。代表者の方が持っているお金や権利を承継します。承継するものは3点。経営権・物的資産・知的資産です。

 承継するものは目に見えるもの/見えないものという分け方もあります。

詳しくはこちら
▼関連記事 【土地と技術だけではない。農業の事業承継で引き継ぐべき5つのこと】
https://agri-touch.co.jp/succession-5things/ 

①経営権の承継

経営権の承継とは、主に株式の継承を指します。会社の経営トップになることは、そこで雇用されている社員・パートアルバイトの方すべてそのまま引き継ぎます。そのため、法的には事業承継していたとしても、社員さんから新社長として認められず、やきもきすることもあるかもしれません。経営権の承継は新経営者と認めるに足りるスキルや人格も必要になってくるでしょう。

②物的資産の承継

物的資産とは、農地、トラクターやコンバインといった農業機械、作業場やビニールハウス・保管庫などの農業設備、債権債務、現預金、契約書などを指します。ひとつひとつ所有権または賃借権の名義を変更するだけなので、承継する3点の中では一番イメージしやすいかと思います。農業用機械や設備は貸借対照表と照らし合わせて確認すれば抜け漏れが少ないです。

③知的資産の承継

承継する3点のうち、最も重要で複雑なものがこの知的資産の承継です。顧客や取引先、それらの商習慣や信用。また会社のブランディングや企業理念があります。

社内に目を向けると会社の成り立ちや伝統といった企業理解、経営理念・ビジョン、そして栽培技術があります。

ブランディング、ビジョン、会社の成り立ちといったところは、後継者候補の方と丁寧にコミュニケーションをとれば承継に問題ないかと思います。ただ、それ以外の部分が難点です。理由はマニュアル化が非常に難しいことと、合理的な判断でなされているとは限らないからです。

完璧なマニュアルを作り、種まき時期、収穫時期などの農作業を事細かに定めていても、一回の天災ですべて水の泡になるという経験は、野菜作りをしたことがある方なら誰しもが通ってきた道でしょう。マニュアルなんて必要ない!という意味ではなく、マニュアルから逸脱した時の対応力こそが、真の栽培技術といえます。その対応力、臨機応変さを培う術を承継することを目指しましょう。

また、古くからのお客様や取引先とは、昔のやり方がいまにも残っていることがあります。代表的なものはFAX。笑い話ではありませんが、「FAX送っときました。」というLINEが、令和でも当然のように行われています。

「タイムスリップしたようだ。」
都会の企業で働き、農家を継ぐために実家へ帰ってきた方はそう感じるそうです。何気ない習慣に第三者の視点を入れ、それを受け入れる余裕を持つことがスムーズな承継のカギになります。

まとめ

そもそも事業承継ってなに?農家特有の事業承継事情や何を承継すればいいのか、という点について紹介しました。

ポイントは
・事業承継とは単に組織のトップの交代ではなく、法的に資産の所有者が変わることである
・「事業承継をしない」という選択は、マクロで見ると多大な損失
・事業承継には労力と時間がとてもかかる。そのため、早め早めの行動が成功には不可欠
以上の3点です。 

正しい知識と大局観、そして十分な期間を設けること。そのためには信頼できるプロへ相談し、正しい知識を身に着けるということも有効な手段です。大切な財産を未来へ残すべく事業承継を、是非とも成功へ導いてくださいね。

参考

中小企業庁 「中小企業白書」https://www.chusho.meti.go.jp/pamflet/hakusyo/index.html 

農林水産省 「農業センサス2020」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/

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